きみへの想いを、エールにのせて

「そんなの気にしないで」


水泳にすべてをかけてきた彼が、それを失ったときの苦しみは、他の人にはわからないだろう。


「ごめんな、茜」


泣きそうになり声が出せない。
小さく首を振ると、私の背中に回した手に力がこもった。


「茜が水泳部を立ち上げたと知ったとき、俺、すごく複雑で」


泳げないと絶望していた時期なのだから、それも仕方がない。


「でも、泳げないくせに毎日毎日プールに入っている茜を見ていたら、ちょっと挫折したくらいでなにやってるんだろうなって、心が動いたというか……」


あの恥ずかしい姿を本当に毎日見られていたの?

でも、それで彼の気持ちが前に向いたのなら、頑張った甲斐もある。


「茜のために、絶対にインターハイに行くって思った」

「ありがとう、結城君」
< 346 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop