きみへの想いを、エールにのせて

「ごめん。チョコちゃんを泣かせるつもりなんて、なかったんだ」

「ううん。私、結城君の気持ちも知らないで……」


そう声を絞り出すと、彼は首を横に振った。

そして、「これしかないけど」と彼は私にタオルを差し出してくれる。


「ありがとう」


ふかふかのタオルは、いい匂いがする。


「まだ、雄介には言ってないんだ」

「えっ?」

「コーチと家族以外は、チョコちゃんしか知らない」


そんなに重要なことを教えてくれたの?


「やっぱり、同じ選手の立場の人には言いにくい。どれだけ仲が良くても、チームメイトでも、あの台の上に上がったら、ライバルになる」


私は小さくうなずいた。

それが個人競技というもの。

もちろん、切磋琢磨してタイムを競い合うのは悪いことではないけれど、リレー以外では常にライバル。


雄介君とは種目が違う。
でも、目指す場所は同じなのだ。

だから、安易に自分の弱さを見せたくないという気持ちは、よくわかる。
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