秘密のカレはV(ヴィジュアル)系
side 瑠威




(畜生……!)



俺は固い握りこぶしを、クッションにぶつけた。



苛々しているのは、誰あろう、俺自身にだ。
望結に言われて、なにも言い返せなかった。



「瑠威はママのこともっと考えるべきだよ!」



そんなこと、言われなくたってわかってる。
……俺だって、気にしてないわけじゃない。



だけど、両親に結婚のことを言ったところで、反対されるのがおちだ。
それだけならまだしも、どうせかおりに酷いことを言うに決まってる。
かおりには辛い想いはさせたくない。
だから、会わせたくないんだ。



俺がバンドをやめないからといって、その後、一切の連絡を絶ったのは親父達の方だ。
あの時に、俺はもう親との縁は切ったつもりだ。
俺は、俺だけでかおりを絶対幸せにしてみせる。
それの何が悪いんだ!?



そんな想いのどこかで、もやもやとした気持ちがあることは事実だ。



俺だって、結婚をみんなに祝福してほしい。
でも……
親父は絶対にかおりのことは認めないだろう。
そんなことはわかってる。
年がどうとか、子供がいることとか、初婚じゃないとか、いろんなことを言って反対するに決まってる。
だったら、最初から言わない方が良いじゃないか。
かおりに悲しい想いをさせないためにも、今まで通り、親とは決別したままの方が誰にとっても良い事なんだ。



メンバーはみんな俺とかおりのことを祝ってくれる。



(それだけで良いじゃないか…)



< 126 / 204 >

この作品をシェア

pagetop