秘密のカレはV(ヴィジュアル)系
(あ、でも、表札は変えなきゃな…)



北川から杉原に…



(杉原……)



最近の俺はただの「瑠威」でしかなかった。
今の生活は「瑠威」だけでほとんどが済んでしまうから。
杉原という苗字を意識した時、ふと両親の顔が過った。



かおりはやっぱりちゃんと俺の親に挨拶をしたいと考えているだろうか?
両親に祝福されない結婚はいやだと思うだろうか?



(そりゃあ、思うよな…)



だけど、あの両親に俺達の結婚を認めさせるのは、不可能なことだと思えた。
おふくろはそうでもないかもしれないが、親父は絶対に認めないだろう。
そんなことはわかりきっている。
だから、言うつもりはないのだけれど…気にかかっていることは事実だ。



俺だって、本当は両親にかおりの事を認めてほしい。
年の事とか、子供がいることとかは抜きにして、かおりという人物の良さを知ってほしいと持ってるし、仲良くやってほしいとも思ってる。
でも、それが無理だってこともわかってる。
俺ともこの数年間は、メールのやりとりすらないんだ。
バンドをやめない限り、もう家には戻って来るなと言われ、その通りにしている。
それからは全くの音信不通状態だ。



大学だって俺一人の力でちゃんと卒業した。
今だって、家庭教師のバイトでそこらへんのサラリーマンには引けを取らないだけの収入はある。
だけど、親父はそういうのを許さない。
髪を染め、長く伸ばし、派手な身なりをしている…それがすでに許せないんだ。


(そんな奴に何を言ったって無駄だよな…)



俺は熱いシャワーでいやな気分を洗い流した。
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