恋は天使の寝息のあとに
お土産屋さんの前を通りかかったとき、山積みされた動物のぬいぐるみを前にして、心菜が反応した。

「心菜、どれがいい?」
「うーうー、ばっ」

よくわからない言葉を発した心菜は、灰色のカブトガニのぬいぐるみを指差す。
つるんとした丸い甲羅にムカデのような足が何本か生えている。
デフォルメされているとはいえ、あまり可愛いとは言えない。

えー、よりにもよってそれ?
もっと可愛いやつがいっぱいあるじゃん。

「心菜、これとかいいんじゃないかな?」
私は近くにあったイルカのぬいぐるみを心菜の前に差し出すが、心菜はぶんぶんと首を振る。

「何言ってんだよ、これがいいって言ってんじゃん」
恭弥は心菜の身長ほどもある大きなカブトガニのぬいぐるみを心菜に渡した。

「えーーー? だってそれ全然可愛くないよ? もっとペンギンさんとかさぁ、アシカさんとかさぁ……」
「いいんだよ、心菜がこれって言ってんだから」
「成長したら、きっと後悔するよ? もっと可愛いのにしとけばよかったって」
「そしたらまた買ってやればいいだろ。パパがいくらでも買ってやるからな」

だからパパじゃないってば……

甘やかし過ぎもよくないと思う。
このままいったら心菜はどんどんわがままに育っていくのではないだろうか。
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