恋は天使の寝息のあとに
「!?」

恭弥は驚いたみたいだった。
だけど何も言わず、嫌がることもせず、ただじっと、私の抱擁を受け入れてくれた。

私は彼の耳元に頬をつけながら言う。

「恭弥は、心菜の本当のパパだよ」

「……うん」

彼は短く頷いたあと、二人の身体に回した私の腕に、そっと手を添えた。
なぞるように手繰り寄せ、見つけた私の手のひらを、ぎゅっと強く握る。
その手は大きく暖かく、抱きしめてるのは私なのに、抱きしめられている気がした。

しばらくそのぬくもりに身を委ねたあと
彼が私の顔を覗きこむように、首を傾けた。
その気配を感じて、私も彼の顔を見つめる。

目の前に、今までに見たことがないくらい優しい、薄茶色の瞳がある。

とくん、とくん、と鼓動が、ひとつ、またひとつと脈打ち始めた。
じわじわと呼吸が熱を帯びて、吐き出す息が熱くなっていくのを感じる。
それは彼も同じなのだろうか。
彼の暖かい吐息が鼻筋を掠めて、距離がゼロに近づく。

やがて唇が、触れ合う、
寸前――

「あの、恭弥、」

私が待ったをかけると、恭弥は少し不機嫌そうに眉を歪めた。

「何?」

今までも何度かこういうことがあった。
その度に寸止めをされて、私の心は弄ばれ、いいようにからかわれてきた。
もう騙されたくはない。

「また、からかってる?」

私がおそるおそる問いかけると、彼はいつになく真剣な顔をした。

「……からかってない」

答えた次の瞬間。
彼は自らの唇で、私の唇を塞いだ。
< 128 / 205 >

この作品をシェア

pagetop