恋は天使の寝息のあとに
「嘘だろう」

彼がきっぱりと言い切った。
私がはったりを言っていると思ってるのだろうか。これっぽっちも信じていないような瞳。
たまに彼は根拠のない自信を振りかざすときがあって、その自信がどこからきているのか聞きたくなる。

「嘘じゃない」

「じゃあ会わせてくれ」

「翔に会わせる必要なんか、ない」

私は彼の瞳を真っ直ぐに睨んだ。

「本当にいい人なの。心菜を実の娘同然に思ってくれてる。
きっと、良いお父さんになってくれる」

恭弥のことを必死に思い浮かべて、私は言葉を紡ぐ。
気を抜くと負けてしまいそうで、震える唇をかみ締めて堪えた。

今まで申し訳なさそうに恐縮しきっていた翔だが、このとき初めて顔をしかめた。
明らかに不満そうに呟く。

「そいつがどんなヤツかは知らないけれど――娘が成長したとき、自分の父親が本当の父親じゃないって知ったら、どう思うかな」

もう翔は頭を下げなかった。脅すような眼差しで私の全身を絡めとる。

「君はどうだったの? 再婚して、本当のお母さんじゃない人を、素直にお母さんって呼べた?」

「それはっ……」

――確かに、素直には呼べなかった。
決して新しい母のことを嫌いだとは思わなかったけれど、それでも、本当の母とも思えなかった。

けれど、それは私と新しい母との出会いが遅かったからだ。
十八歳のときに出会った親と、産まれたときから一緒の親とは違う。
物心付く前から一緒ならば、心菜も受け入れてくれるはず。

「私が、ちゃんと教えますから! 彼は本当のお父さんと同じだよって!」
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