恋は天使の寝息のあとに
この人の人生を、私が不幸にさせるかも知れないんだ。
私が、心菜が、父親を求める限り、この人は自分を犠牲にして応じようとしてくれるだろう。
それを止める方法を、ひとつしか思いつかない。
心菜も、恭弥も、二人とも幸せに出来る方法。
――私の気持ちなんてどうだっていい。


「ねぇ恭弥」

私はそっと彼の胸に手を当てて押した。
私と彼の距離がゆっくりと開いていく。

「私、翔とやり直す」

「……は!?」

恭弥は驚いて大きく目を瞬いた。

「何言ってんだよ、お前……」
信じられないとでもいうように、恭弥は呆然と呟く。

「決めたの。翔とやり直す」

私がそう言い切ると、恭弥は明らかに動揺を見せた。
憂慮だろうか、焦りだろうか、もしくは怒りなのだろうか、彼の瞳は大きく揺れていた。

「……一体あいつに何を言われたんだ?」

「……悪かったって。もう一回やり直そうって」

「それだけであんなヤツのこと信じんのかよ……
あいつ、お前に何したか、忘れたのか!?」

忘れられるわけがない。
浮気されたことも、理不尽に怒鳴られたことも、手を上げられたことも、どんなに謝られたとしても水に流せることではない。

それでも。
翔が心菜の本当の父親であることは事実だし、仮にも一度は人生を共にすると誓い合った人だ、選んだ私自身にも責任がある。
ひょっとしたら、彼が言っていた通り、改心して優しくて良い父親になってくれるかもしれないし……

例え私に愛が残っていなくても、心菜にとって幸せな家庭が築けるなら、それで十分だ。
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