恋は天使の寝息のあとに
新生活はひとまず好調な滑り出しを見せた。
しかし、出だしから何もかも完璧過ぎる翔が、私は心配でならなかった。

そもそも、それ自体が私と翔の関係を破綻させた原因であるからだ。

完璧であるが故の苦悩。
常に最高であることに慣れている彼。

彼との関係が壊れる直前、それまでは順調に進んでいた仕事が突然立ち行かなくなったらしい。
自分ではどうすることも出来ないトラブルに見舞われて、ひょっとしたら翔にとっては人生初の挫折だったのかもしれない。
その上、家に帰ってくると、私がつわりでぐったりとしていて、余計に彼の気を滅入らせた。
彼はあっさりと心を壊し、誰よりも優しかったその人は、暴力的な男性へと変貌した。

だから、私は彼にあまり頑張って欲しくない。
逆に言えば、彼の精神面を上手にコントロールし続ければ、優しい彼のまま、仲良く三人で暮らし続けていけるのではないだろうか。

あのときの怖ろしい彼の一面が、ある種の病だとするならば。
その病が再発しないように、私がセーブしてやればいいのだ。

それさえできれば、きっと翔は最高の父親になってくれる。

絶望的に思われた彼との再スタートに、一筋の光が射した気がした。


翔とは、一年半、連絡のひとつも取ることなく離れて暮らしていたから、寄りを戻すといってもいきなり一緒に暮らし始めるのは難しいだろう。
まずは週末だけ三人で過ごしてみようと私は提案した。
その方が翔の精神的負担も少ないはずだ。
翔は土曜の朝にやってきて、一晩一緒に過ごした後、日曜の夜、心菜が眠りについたあとに帰っていく。

週末になるとパパが来るという生活スタイルは以前と変わらない。
違うのは、恭弥なのか翔なのか、ただそれだけ。
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