恋は天使の寝息のあとに
「……えっ」

間抜けな声が漏れた。
頭の中が一瞬でフリーズする。

――今、なんと……?

大胆なことを言い出した彼は、表情のひとつも変えぬまま言葉を続ける。

「俺が稼いで、お前が家に入れば、お前も、心菜も、楽になるだろ?」


え?
何言ってるの恭弥?


半信半疑のまま、彼の台詞を心の中で反芻する。
その言葉の意味するところが、じわじわと私の中に染み渡る。


「ねぇ、恭弥」
私は震える声で運転席の彼を見上げた。
「言ってる意味、わかってる?」

「は?」

恭弥は、何バカなこと言ってんだとでもいうように、眉間に皺を寄せて私を一瞥した。

だって
家計のためだからって、心菜のためだからって
結婚だなんて。


私たちと恭弥の関係は、今も家族のようなものだけれど
結婚となると、今度は決定的に違う。

心菜の本当の父親になるということ。
そして――

「……私の、旦那さんになるってことだよ?」

私がおそるおそる口にすると、彼は車道の奥を真っ直ぐに見つめながらも、ちらりと私に視線を寄こした。

「別に。構わないけど」

短くそう答えてハンドルを切る。
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