恋は天使の寝息のあとに
いやいやいやいやいや、ちょっと待って。簡単に言うけれど。
旦那さんになるっていうことは。
夫婦になるっていうことは。

愛を誓い合うということで。

「私を奥さんにするってことだよ!? 私のこと、そんな目で見れるの!?」

それは今の関係から考えて、あまりにかけ離れすぎていて。

私たちの間には愛なんて微塵もないし
信頼関係だって危ういし

私のこと、まるで興味がないくせに、どうしてそんなことが言えるの? と。
浅はかなことを口走る恭弥についつい口調が荒くなってしまった。

そもそも私たちは兄妹だよ?
結婚なんておかしいじゃないか。


「そんな目って……」

恭弥が呟いて、強めにブレーキを踏んだ。
私の身体は前にがくんと揺らされる。
赤信号――私が恭弥の方を見上げると、恭弥も信号から視線を外してこちらへ向き直っていた。


「それは、男女の関係とか、そういうことを言っている?」


私の顔のすぐ横に腕が伸びてきて、私はびくりと身体を強張らせた。

私が頭をもたれているヘッドレスト、そこへ恭弥は乱暴に手をかける。
そのまま私へ覆いかぶさるようにして、恭弥は腰を浮かせた。

暗闇の中、彼の瞳が街の明かりを反射してギラリと輝いた。
顔が目の前にまで近づく。今まで経験したことのない距離。思わず息が止まってしまう。
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