恋は天使の寝息のあとに
「それでお兄さんを連れてきたのか?
どうして直接僕に話してくれないんだ。
君の悪い癖だね。こんなに大切なことを自分の口から言ってくれないなんて」

翔の言葉に私はぐっと押し黙る。見かねた恭弥が口を挟んだ。

「言ったらあんたがキレるから、言えなかったんだろ?」

翔はこれを無視した。私から視線を逸らさない。私自身の反論を待っているようだ。

「沙菜、どうしてなんだ。
確かに、僕は完璧ではなかったかもしれないけれど、約束通り二人に手をあげていないし、それに――」

「今さら関係を戻そうったって、無理なんだよ」

翔の言葉を遮って、恭弥が割って入る。

「お兄さん、すみませんが、沙菜と話させてください」

合間合間に邪魔をされていい加減我慢できなくなったのか、翔が恭弥に向き直った。

「心菜のためにも、僕や沙菜自身のためにも、三人でいることが一番なんです。
それが、僕と沙菜で話し合って出した結論です」

はっきりと宣言して、再び私に視線を向ける翔。

「沙菜、うまくいかないときもあるかもしれないけれど、そうやってすぐ逃げ出さないで欲しい。
話し合って、二人で乗り越えよう」


そう言って私を説得する翔の瞳は真摯だった。
彼はまだ諦めていない――というより、彼の中には諦めるという選択肢自体存在しないのかもしれない。
前向きな言葉で希望を見せられ、思わず彼を信頼しそうになる。
彼の言う通り、苦難も乗り越えられるのではないかと思ってしまう。

が、経験と理性が待ったをかける。
こうやって今まで、どこだけ失敗を繰り返してきた?

彼は過ちを犯す度、その真摯な瞳で私に謝ってくれたけれど、結局は私を裏切ったではないか。
そして今、こんな状況になってしまっていることが、何よりも説得力のある答えだった。
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