恋は天使の寝息のあとに
……ち、近いんだけど……
何する気?
私を真っ直ぐに見つめる恭弥。すごい威圧感。
その距離と、注がれる鋭い視線に、声が出せない。
鼓動がどくっと大きく跳ね上がる。
「お前がそういうのを望んでるなら、答えてやってもいい」
恭弥が私に、より一層顔を近づける。
嘘。待って。
その顔が私の知る『兄』ではなく、一人の『男性』に見えてしまって。
どうしたらいいか分からない。ただ、鼓動の音だけがどんどん早くなっていく。
彼の前髪が、私の鼻筋を掠めた。
あと数センチ。
私と恭弥の『それ』が、触れてしまう。
そんなとき。
後ろから大きなクラクションが鳴り響いた。
気がつくと、すでに信号は青に変わり、隣の車線は流れ始めていた。
「き、恭弥、信号!」
「――やべっ!」
恭弥は慌てて体を運転席へ戻し、アクセルを踏み込んだ。
交差点を渡り終えてしばらく走ったところで、短くため息を漏らす。
再び車内に訪れた沈黙。
静寂の中、自分の心臓の音だけがバクバクと大きな音を立てて響いていた。
今、何しようとしてた?
答えは分かっていたけれどとても信じられなくて、思わず口元を手で覆い隠した。
頬が熱く火照っている。