恋は天使の寝息のあとに
開会の時間が近づき、人混みが密度を増し、その中を掻き分けて歩くのが徐々に困難になってきた。
保護者たちは我が子の登場を今か今かと待ちわびて、臨戦態勢に入っている。

似た背格好の男を見つけて顔を覗きこむも、やはり別人で、諦めかけて立ち止まった、そのとき。

「沙菜。おい、沙菜」

その男が私の名を呼んだ。

へ? 誰?

私は振り返ってその声の主を見上げるも、その男が誰なのかすぐには分からなかった。
呆然とする私を見て、その人物が再び私の名を呼ぶ。

「おい、沙菜。どうした?」

その声でやっとその人物が、自分の探している人だと気づいた。

「……恭……弥……?」

目を見開いてぽかんと口を開けた私を前にして、恭弥は怪訝な面持ちで首を傾げる。


だって。
その人物は、私の知っている恭弥の姿とはあまりにもかけ離れていて。
そうだと言われても、すぐには納得できなかった。


まず、あの鬱陶しい前髪がなかった。
綺麗に整えられていて、ボサボサ頭も今どきな無造作ヘアに生まれ変わっていた。

そして
いつものよれよれジーンズとパーカーじゃない……!

ジャストサイズのブラックジーンズに、ほどよいきちっと感を演出するネイビーのジャケット。

生まれ変わった爽やか過ぎる恭弥に、私は開いた口が塞がらない。
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