恋は天使の寝息のあとに
「一体どうしちゃったの、恭弥……?」

私の言いたいことを察したのだろか、恭弥は少し不機嫌そうに、そしてどこか恥ずかしそうに瞳を逸らした。

「仕方ないだろ。
だらしない格好で来たら心菜が可哀想だから。
……一応、父親代わりだし」

恭弥は居心地の悪そうな表情で頬を掻く。

「……」

へぇ、と私は彼を見上げた。
そんな気遣いをする人だなんて、初めて知った。

彼らしからぬ気の回し方がなんだか可笑しくて、ついついくすりと笑みを溢してしまった。
それを見た恭弥は余計に気を害したようで、ばつの悪そうな顔で私を指差す。

「それに。お前も」
「私?」
「俺が酷い格好してたら、隣で歩くの、恥ずかしいだろ?」

――それは
私と恭弥が、夫婦に見えるから、ということだろうか?
私のことまで、気にしてくれてたんだ……


私は再び彼の顔をまじまじと見上げる。

今まで一緒に歩いていて恥ずかしいだなんて思ったことは一度もないが
いつもより短い前髪のお陰で瞳の鋭さが抜けて、あらわになった端正な顔は、お世辞抜きに格好良い。

確かに、こんな恭弥を横に並べて歩くことができるのは、少し誇らしいかもしれない。
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