恋は天使の寝息のあとに
年長の子どもたちが先頭に立って、開会の挨拶を宣言した。
それが終わると童謡が流れ、準備体操と称したお遊戯が始まる。

子どもたちがぴょこぴょこと飛び跳ねる姿は実に可愛らしい。
心菜はまだ小さいから大したお遊戯もできず、ただなんとなく、みんなの動きを真似しながら手を伸ばしたり縮めたりしていた。

恭弥はバッグからデジカメを取り出し――まさか本当に新調したのだろうか?――心菜に向けて一心不乱にシャッターを切る。
たまにベストショットが撮れると、私の前にデジカメのモニターを差し出し、ほら、どうだ、とドヤ顔でひけらかしてきた。

なんて無邪気なんだろうこの人。

数年前の、無口で、強面だった彼はどこに行ってしまったのか。

ときどきこの人は自分よりも年下なんじゃないかってくらいあどけない表情をするから、調子を狂わされる。



心菜のクラス競技が終わると、担任の先生が客席に向けて声を張り上げた。

『ひよこ組の集合写真を撮りますので、ご家族の方は校庭の中央にお集まりください』

「行かなくちゃ」

そう言って私が恭弥を見上げると、彼はさっさと行ってこいとばかりに手を振る。
私が一人で校庭の中心へ向かおうとすると、それを見ていた先生が私たちの元へ駆け寄ってきた。

「お父さんも是非写真に参加してください」
「いや、俺は結構ですんで……」

遠慮する恭弥。
案の定、父親と間違えられている。

そうだよね。他人から見れば、恭弥はお父さんにしか見えないんだ。
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