恋は天使の寝息のあとに
「沙菜ちゃーん」

写真を撮り終えて客席へ戻ると、元気の良い女性の声が後ろから飛んできて、私は振り返った。
はつらつとした太陽のような笑顔で私の名を呼ぶのは、由利亜(ゆりあ)さん――心菜のクラスメート、利哉(としや)くんのママだ。
三つ年上の彼女とは心菜を出産した産院で出会った。
お互い同じ時期に第一子を出産し、仲良くなったことをきっかけに、良いママ友付き合いをさせてもらっている。

由利亜さんは、私と同時に振り返った恭弥の姿に気がついて、はっと表情を変えた。

「ええと、心菜ちゃんの……パパ?」

私がシングルマザーであることを知っていたせいか、恭弥との関係に迷ったらしい。
彼女は私たちの関係性を探り当てるかのごとく、まじまじと観察した。

「由利亜さん、これ、兄です」

私に紹介された恭弥は、静かに慎ましく微笑む。

「いつも沙菜がお世話になっています」

軽く頭を下げた恭弥に、私はまたしてもへぇーと感嘆してしまった。
礼儀正しく挨拶できるんだ。
笑顔なんて作っちゃって。そういうこと、苦手な人なんだと思っていた。

すると由利亜さんは少しだけ驚いて、とはいえすぐに安心したような笑顔に戻る。

「あ、ああ、そう、お兄さんね!? びっくりしちゃった。あはははは」

面倒を見てくれる兄がいるということは話したことがあったけれど、ずぼらでだらしなくて無愛想な兄と説明していたから、あまりの印象の違いに戸惑っているのかもしれない。

由利亜さんは動揺しながら少し赤らんだ頬をパタパタと手で仰いでいた。
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