恋は天使の寝息のあとに
***
心菜がダイニングのテーブルに向かって背伸びをしている。
何かを取りたいようだが一体何を見つけたというのか。
それが黒い革の財布だということに気がついて、私は、あっ、と声を上げた。
恭弥のものだ。
昨日の運動会のあと、忘れて帰ったんだ。
手に取ると、二つ折りの薄い財布は予想以上に軽く、最低限のお札と小銭しか入っていないことが分かる。
カードやレシートは溜め込まない主義のようだ。そういえば、細々したものは嫌いとか言っていたな。
とはいえ、さすがの恭弥も困っているかもしれない。
今日の野暮用とやらは、財布がなくても問題ないのだろうか。
……そもそも財布がなくて困らない用事なんて、滅多にありはしないだろうけれど。
そのうち取りに来るかな?
何も連絡がないところからすると、忘れたことに気がついていないかもしれない。
心菜が私の手の中の財布に手を伸ばし、あーっ! あーっ! と苛々した声を上げ始めた。
ちょうだい、ちょうだいと言っている。
「だめだよ、心菜、よだれでべちゃべちゃにしちゃうじゃん。恭弥に怒られるよ?」
「あうーっ! うーっ!」
まぁ、ちょっとくらい汚されても、それで心菜に喜んでもらえるなら、彼にとっては本望かもしれない。
そんなことを考えていると
――ピンポーン
玄関のチャイムが音を立てた。
心菜がダイニングのテーブルに向かって背伸びをしている。
何かを取りたいようだが一体何を見つけたというのか。
それが黒い革の財布だということに気がついて、私は、あっ、と声を上げた。
恭弥のものだ。
昨日の運動会のあと、忘れて帰ったんだ。
手に取ると、二つ折りの薄い財布は予想以上に軽く、最低限のお札と小銭しか入っていないことが分かる。
カードやレシートは溜め込まない主義のようだ。そういえば、細々したものは嫌いとか言っていたな。
とはいえ、さすがの恭弥も困っているかもしれない。
今日の野暮用とやらは、財布がなくても問題ないのだろうか。
……そもそも財布がなくて困らない用事なんて、滅多にありはしないだろうけれど。
そのうち取りに来るかな?
何も連絡がないところからすると、忘れたことに気がついていないかもしれない。
心菜が私の手の中の財布に手を伸ばし、あーっ! あーっ! と苛々した声を上げ始めた。
ちょうだい、ちょうだいと言っている。
「だめだよ、心菜、よだれでべちゃべちゃにしちゃうじゃん。恭弥に怒られるよ?」
「あうーっ! うーっ!」
まぁ、ちょっとくらい汚されても、それで心菜に喜んでもらえるなら、彼にとっては本望かもしれない。
そんなことを考えていると
――ピンポーン
玄関のチャイムが音を立てた。