恋は天使の寝息のあとに
私が十八歳のとき。初めて出会った恭弥は二十三歳だった。

いつも気だるそうに煙草をふかしていて、会うときはだいたいよれたジーンズ。
無造作なボサボサ頭に長くてうざったい前髪。

言葉数が少なく、何を考えているのかよく分からない人だった。
おまけにシュッと伸びた身長と長い手足、ほどよく筋肉のついた男らしい体型は文句の付け所がなく、完璧な彼のスタイルは私にいっそう距離感を感じさせた。
長い前髪からときたま覗く瞳が鋭くてワイルドで、格好良いと同時に怖ろしくもあった。

遠目から眺めるだけの私に、彼の方も、特に歩み寄ろうとはしてこなかった。

ふたりとも、いい歳だった。
親の再婚で兄妹ができましたなんて言われても、どうこう考えるような年齢ではなかった。

ましてや恭弥は親元を離れ自立していた。
実家を出て会社の近くでマンションを借りて一人暮らしをしていたから、私と顔を合わせることはほぼ皆無、彼の妹であると実感する機会はほとんどなかった。

だから、私たちは決して仲の良い兄妹ではない。

まともに話したのは、両親の葬儀のときくらい。
車の事故で二人同時に逝ってしまったから、そのときばかりは兄妹で協力するしかなかった。

といっても、他人同士の私たちだったから、特に悲しみを分け合うでもなく、ただひたすらに葬儀の雑務を分担してこなしただけだったのだが。
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