恋は天使の寝息のあとに
第四章
二人きりの車内。
心菜がいない。私と恭弥を結びつけるものが何もない。
こんな状況初めてだ。どうすればいい?

私は助手席に座って、運転席の恭弥をちらちらと覗き込みながら、膝の上のバッグを抱き締めた。

恭弥は無表情のまま、黙ってハンドルを握っている。

今、彼は一体何を考えているのだろう。
私と二人で出かけたところで、きっとつまらないはずだ。
めんどくさいなぁとか、早く帰りたいなぁとか、そんなことを思っているのかもしれない。

車は家から最短ルートで幹線道路に出て、そのまま都心方面へ向かっているようだった。
どこへ行くつもりだろう。当てはあるのだろうか。

「そういえば」

恭弥がふと話を切り出してきた。
運転席から横目でちらりと私を確認する。

「服、欲しいっつってたよな。まだ買ってないんだろ?」

「……うん」

「買いにいくか。どこがいい? ドライブだし、景色の良いところ走りたいよな。つってもそんな遠くは行けねぇし……」

恭弥はそんなことをぶつぶつと呟きながら、ハンドルを切った。


予想外の優しい口調に拍子抜けする。
無理やり私と出かけることになって、気を害しているかと思いきや、そういうわけでもないらしい。
最強に面倒くさがり屋の彼が、私とのお出かけプランに気を回してくれている。

いつも、もっと無愛想で、冷たくて、何の会話もしてくれないくせに。
こんなときだけ優しいなんて。なんだかすごく、緊張する。
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