恋は天使の寝息のあとに
状況が変わったのは、心菜がお腹にいた頃。私が離婚を決意したときだ。

このとき私は初めて恭弥が一人で暮らしているマンションを訪れた。
突然の訪問に、恭弥は何事かと驚いていたっけ。今まで一度だって、家まで会いに来ることなんかなかったから。
部屋の中は綺麗に掃除されていた。というよりも、物自体が少なくて、さっぱりとしていた。
ごちゃごちゃするのが嫌いな面倒くさがり屋の彼の性格が良く出ている部屋だった気がする。

そこで私が『離婚しました』と切り出したとき、彼は少し考えて、こう言った。

『子どもは好きだ。多少なら面倒見てやってもいいぜ?』

出会って初めて、彼は私に笑いかけた。


あのとき、一体何を考えてそんなことを言ったのだろう。
私とは頑なに距離を置き続けてきた人だったから、優しくしてくれる理由が分からなかった――今でも。

それでも、宣言どおり彼はこうして誰よりも心菜を可愛がってくれている。
理由はどうあれ、心菜のそばにいてくれるのなら十分だ。
私への態度が冷たかろうが、私の扱いがぞんざいだろうが、この際、贅沢は言わず、水に流そう。

何しろ、旦那もいない、両親もいない、一人ぼっちの私にとって、こうして子育てを手伝ってくれるこの男の存在は、どれだけありがたいことか。
< 7 / 205 >

この作品をシェア

pagetop