恋は天使の寝息のあとに
「恭弥は、話しかけても何も言ってくれないし……
私と会話する気なさそうだし……
私のこと、嫌いなんじゃないかなって……」

たどたどしい私の説明に、恭弥はムッと顔をしかめた。
それを見た私はますますうつむいて首を縮こませる。怒らせてしまったのだろうか?
しかし、聞こえてきたのは恭弥の深い深いため息。
私が目線を上げると、彼はだるそうに力を抜いて、手すりにその身をもたれ、うな垂れていた。

「お前、バカか?」

「はい?」

突然バカにされて私は目を瞬いた。
恭弥は半眼で呆れながら、私の方を睨む。

「わざわざ嫌いなやつのために、毎週毎週会いにいったりすると思うか?」

「だって、それは心菜に会いに……」

「半分はお前に、だろ」

恭弥は再びため息をついて、小さな声で「鈍感」と漏らした。

『鈍感』? 違うよ、恭弥がわかりにくいんだ。
私にあれだけ冷たい態度を取っておいて、『半分は私のため』だって?
あれじゃあ全然伝わらないし、せめて言葉にしてくれないと分からないよ。

少なくとも嫌われていないことは分かった。が、理不尽だ。

嬉しいんだか悲しいんだか分からなくなって、なんだか泣きそうになりながら「でも……」と私は反論した。

「だって、恭弥は、兄と思うなって言ってたじゃん。私と距離置こうとしてたじゃん」

なにしろ、先に私を突き放したのは紛れもない恭弥自身なのだ。

「あー……それは……」

恭弥は頭のうしろに手をやって、くしゃくしゃと髪をかき混ぜた。
苦虫を噛み潰したような顔で、なにやら言いづらそうに遠いどこかを見つめる。

「……妹なんて、どうやって接すればいいのかわからなかったんだよ。
ただでさえ、お前、初めて会ったとき、思春期っつーかデリケートそうな時期だったし」
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