恋は天使の寝息のあとに
なんだその言い訳。
恭弥はいつだって鋭い瞳と乱暴な物言いで私を威嚇してたじゃないか。
今さらどう接すればいいかわからなかったなんて子どもじみた理由、納得がいかない。


「だって、私の話聞いても、何も言ってくれないし……」

「……あんまり深く突っ込んで聞いたら、嫌がられるかと思ったんだよ」

「自分のことも全然話してくんないし……」

「俺の話なんか聞いたってつまんねぇだろ?」

「私にすごく冷たくしてたじゃない!」

「いい歳してべたべたしてくる兄なんて、気持ち悪いじゃねぇか」


なんだそれ。

そんな遠まわしな理由で私に冷たくしていたの?
じゃあ今まで私が抱えてた悩みは、一体なんだったんだ?

悔しくて、バカみたいで、じわりと瞳が熱くなって視界が揺れた。
彼の言い訳が嘘みたいで、信じたい気持ちと信じられない気持ちがぶつかって、涙が零れそうになる。
うつむいて耐える私を、恭弥はめんどくさそうに見つめながら、三度目のため息をついた。


「言いたいこととか聞きたいこととかあるなら、さっさと言え。俺に遠慮なんかすんな」

恭弥がグーを作って、私の肩を優しく小突いた。
私の身体が少しだけグラッと揺れて、その反動で瞳から涙が一筋零れ落ちる。

それを見た恭弥は、あーあ、というような、がっかりしたような、苦い表情を浮かべた。
< 72 / 205 >

この作品をシェア

pagetop