恋は天使の寝息のあとに
頬に伝った涙の軌跡を恭弥が親指で拭って、触れた指の温かさに、私はそおっと顔を上げた。

「ほんとに……何でも聞いていい?」

「ああ」

「……怒らない?」

「怒らねぇよ」

「嫌にならない?」

「ならないって」


しつこいほど確かめたあと、私はおそるおそる口を開いた。

「……昼間のあの女の人、誰?」


恭弥が目を瞬いた。
そんな質問がくるとは思ってもみなかったのか、クールな表情を崩してポカンと口を開ける。

「……やっぱり、来てたんじゃん、俺の家」

そう呟くと、気まずそうに視線を外して、額に手を当てる。

「一体何しに来てたんだよ」

「……財布、届けようと思って」

「届けてくんなかったじゃん」

「それはっ……知らない女の人がいたから、話しかけられなくて……」

「あー……」

恭弥は厄介そうに口元を歪めると、手を腰に当てたり、首の後ろへ持っていったり、そわそわと落ち着かない様子で動かした。
言葉に詰まると彼は手持ち無沙汰になるらしい。

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