恋は天使の寝息のあとに
「俺に何を言わせたいんだよ! 付き合ってるって言って欲しいのか!?」

苛々としながら一歩踏み出して、私の目の前に立ち塞がる彼。背の高い彼に目の前で立たれると、威圧感で押しつぶされそうになる。

そんなこと言って欲しいんじゃない。恭弥は何も分かってない。
付き合ってないって、あんな女大切じゃないって、お前らの方がよっぽど大事だって
こんなことを言わせたい私は、なんて我が侭なんだろう。

私はただの妹なのに、心菜だって、ただの姪っ子なのに、彼を縛り付ける権利なんて私たちにはこれっぽっちもないというのに。
どうしてだろう。何故か身勝手なことばかり考えてしまって。最低だ。

「別に。ただ、本当のことが聞きたかっただけ」

「じゃあなんでそんなに不機嫌なんだよ」

恭弥が私の額に手の平を当てた。そのまま前髪を上に押しやる。
お前の仏頂面をよく見せろとでも言うように、顔を近づけてまじまじと覗きこんでくる。
その視線から逃げようと、私は目を逸らした。


「……だってもし、恭弥が結婚しちゃったら、心菜のパパがいなくなっちゃうのかと思って」


呟きながら、心菜をいい訳にして彼を繋ぎとめようとする自分はやはり最低だと思い知った。
こんなときだけパパ扱いして、責任を背負わせて、逃げられなくするなんて。


しかし、それを聞いた恭弥は小さな笑みを浮かべて、嘆息した。

「結婚なんかしねぇよ」

「それでも、いつかはするでしょ?」

「する気ねぇって」
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