恋は天使の寝息のあとに
距離が、あと数センチというところまで近づいて
彼の吐息がほんの少し私の唇にかかって
私が目を閉じようとしたとき

彼が私の髪に触れた。

「……ゴミついてる」

「……」

恭弥は私の髪からゴミを払うと、その顔を遠ざけ、元居た位置まで姿勢を戻した。


なに、今の。
呆然と言葉を失う私。
まさかゴミを払うためだけに、こんなことしたんじゃないよねぇ?


目を見開いて固まってしまった私に、恭弥は親指と人差し指で私のおでこを軽く弾いた。

「何? ……して欲しかったの?」

挑発的に言い放った彼に、私の頭の中の血液が瞬間的に沸騰する。

「そ、そんなわけないでしょ!」

「そう言うと思った」

怒りをあらわにした私を鼻で笑った彼は、「あー煙草吸いてぇ」なんて言いながらそっぽを向く。


――からかわれた!

悔しい。頬が熱く火照る。
人の心を弄んで。こんなの、洒落にならない。

きっと彼は、自分の魅力を分かってる。分かってて、わざとこんな思わせぶりなことをして、戸惑う私を楽しんでるんだ。
なんて性格の悪いやつ。

キスしてもいいかななんて思ってしまった自分がどうしようもなく恥ずかしい。

前言撤回! 恭弥とキスなんて、こっちから願い下げだ!
< 77 / 205 >

この作品をシェア

pagetop