恋は天使の寝息のあとに
「別に、恭弥が誰と付き合おうが私には関係ないことだから。
元カノだか今カノだか知らないけど、好きなだけ会ってくればいいよ」

怒りに任せて投げやりに言い放って、私はふいっと横を向いた。
また泣きそうになってしまって、けど今度こそは泣くもんかと、唇をかみ締める。

横から恭弥の視線を感じる。私の様子をうかがっているようだ。

やがて
「わかった」
恭弥は短く答えて、再び手すりにだらりと身体をもたれた。


『わかった』ってことは
またあの女性に会うつもりなのだろうか。

そう考えたらどうしようもなく嫌な気持ちが湧き上がってきて、説明できない焦燥感にどうしたらいいのか分からなくなった。
ああ、ただでさえ苛々してるっていうのに。一発殴ってやろうか。
もちろん、本当に殴るわけにはいかないから、自分の拳をぎゅっと強く握って気持ちを落ち着かせようとした。


「そろそろ帰るか」

恭弥はそう言って欠伸とともに伸びをする。
そのスラリと伸びた手足を、少し厚みのある胸を、緩やかなラインを描く腰を、別の誰かのものだと知ってしまった瞬間悔しくなる。
散々今まで目の前にあって、どうでもいいと気にも留めなかったもの。

触れたい、なんて、初めて思った。
どうしてだろう、からかわれて、バカにされて、こんなに許せなくてたまらないのに。
理由なんて、考えたくもない。

わがままでもいいから「会わないで」って言っておけばよかったなんて
今さらながらに後悔していた。
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