恋は天使の寝息のあとに
「でもそれじゃ、お前が動けないだろ」

恭弥が呆れた声で言った。

「……恭弥は知らないんだよ、眠りを邪魔された心菜の凶悪な泣き声を」

「だからって、ずっと座ってるつもりか?」

「泣かれるより、まし」

げんなりとしながら答える私を見下ろして、恭弥は嘆息する。


「……で。お前自身は? ちゃんと寝れてんのか」

恭弥の問いに、私は首を大きく横に振る。

「飯は食ってる?」

そういえば、朝晩の境目なくずるずると子守りを繰り返していたから、食べるということをすっかり忘れていた。
私は再び首を振る。

「お前なぁ……」

恭弥は腰に手を当てて、はぁっと深いため息をついた。

仕方ないじゃないか。
心菜を泣き止ませるのに必死で、自分のことまで気が回らないのだから。

私たちがそんなやりとりをしていると、気配を察知したのか、心菜がひくひくと動き出した。
次の瞬間、堰を切ったようにわぁぁぁぁぁぁっと大声をあげる。
私たちは顔を見合わせて、やってしまったとばかりに、大きくうな垂れた。
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