恋は天使の寝息のあとに
恭弥が近くのスーパーから買い物をすませて戻ってきたときには、心菜は私の胸にかぶりついたまま眠りに落ちていた。

「眠っちゃった」

そう呟くと、恭弥は私の膝の上の心菜をまじまじと覗き込んだ。

「寝顔、可愛いな」

「うん……」

私と恭弥の表情が、ふんわりと綻ぶ。

心菜が産まれてからの私たちは、共感するということを知った。
何の接点もなかった私たちに、共に何かを成そうという目的意識が生まれた。

「で、お前はまたソファに座り続けるのか」

そう問われて、私は渋々頷く。だって、それ以外の解決方法を知らない。
恭弥がやれやれという風に肩を竦め、心菜に向かってそっと手を伸ばした。

「要は、誰かに抱かれていればいいんだろ」

私の膝がふっと軽くなり、心菜の身体が軽々と持ち上がる。
心菜は一瞬泣きそうな声を出したが、恭弥の胸に抱きかかえられると、安心したのか再び目を閉じて眠気に身を任せた。

「抱いててやるから、今のうちに休んどけ」

そういって彼は心菜を抱きかかえたまま、リビングをふらふらと歩き回る。
揺れが心地良いのか、心菜は気持ち良さそうに眠り続けている。

「ありがとう」

彼のさりげない優しさは、疲れ切った私の心によく染みる。
ひとりで頑張らなくてもいいんだと分かって、私の心はほんの少しだけ軽くなった。
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