恋は天使の寝息のあとに
「ご飯の前に、まず眠ってもいい?
心菜、二時間半後にお腹空くと思うから、泣いたら起こしてね」

それだけ告げて、私はリビングの隣の寝室に向かう。

「二時間半じゃ、大して寝れねぇな」

「こればっかりは仕方ないよ」

「さっきみたいに、胸出しといてくれれば、寝てる間にかぶりつかせとくけど」

真剣な顔で提案してくる恭弥。
胸を曝け出し寝ている私の横に恭弥がしゃがみ込んで授乳させている姿を想像して、かぁっと頬が熱くなった。
ただでさえ胸を見られたことがショックなのに、余計に辱められた気分だ。

「もう二度と見せないから!」

「……一度見たもんは、二回目も三回目も同じだろ?」

「バカ!!」

言い残してリビングのドアを思いきり閉める。
頬を膨らましたまま布団に入るが、あまりの眠気に一瞬で意識を失ってしまう。


三時間後、心菜の泣き声で目が覚めた。
ぐっすりと寝れたおかげで頭がすっきりとして、心に余裕ができたせいか、耳をつんざくような泣き声すらも可愛らしいと思えた。


それからというもの、週末になると恭弥はふらりと実家に立ち寄り、私の睡眠時間を作ってくれた。
それだけで、私がどれだけ助けられたか、彼は知らない。
体力的な問題だけじゃない。
手を差し伸べてくれる人の存在が、どれだけ救いであるかということを、説明したってきっと伝わりはしないだろう。


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