恋は天使の寝息のあとに
そんなことに頭を巡らせていたら、いつの間にか夢中になっていて、隣にいたはずの心菜の姿がないことに気がついた。
一瞬ひやりとして後ろを振り返ると、十メートルほど後ろ、道路の脇にしゃがみ込む心菜の姿。

道の端に寄せられた落ち葉の山を一心に見つめていた。
上には、随分と葉を落として寂しくなった桜の木が枝を伸ばしている。
この木が落とした葉を、近所の人が寄せ集めて山にしたのだろう。

街灯の光を浴びた枯葉は、赤や黄色など色鮮やかで、心菜はそうっと手を伸ばしては、しかし触るのは怖いらしく、びくびくと手を引っ込めていた。

「心菜ー! 行くよー!」

私が遠くから声をかけて手招きをすると、心菜はハッと顔を上げた。
ママと自分の距離が離れていることに気づき、置き去りにされると焦ったのか、泣きそうな顔になって立ち上がる。

「まーっまーっ」

やがて本格的に悲しい顔になり、置いていかないでとばかりに両手を前に伸ばしてトタトタと歩き出した。
まだ走るのは上手ではないのに、気持ちが急いているせいか、足が速くなり、身体が前傾になる。

しまった、と思った。

全力ダッシュなんかしたら、転ぶことは目に見えている。
部屋の中で転ぶならたいした怪我をすることもないが、ここは路上で、下はコンクリートだ。

まずい、と思って私が駆け寄るも、時すでに遅く。

身体が前のめりになり過ぎた心菜は足をもつれさせ、バランスを崩す。
まだ受け身をとることを知らない小さな身体は、勢いよく地面へと突っ伏した。
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