私と彼のマイペース
マイペースでいきましょう
高校三年生の、一学期末に行なわれる三者懇談会。
そのとき私はまだ、自分の進路を決められずにいた。
「折原さんの成績なら、どの大学でも行けると思うんだけどね……。何かやりたいこととかある?」
少し困ったような表情で担任の先生にそう聞かれたとき、言葉を返すどころか頭の中に何一つイメージすら湧いてこなかった。
隣で母親が先生と同様に困った……というよりも呆れた顔で私を見ていることは、その場の空気だけで十分察知出来る。
だけど、ずっと決められずにいるものを、少し考えたところで決められるわけがない。
あとで母親に何か言われることは承知の上で、ありのままに今の心境を打ち明けた。
「……やりたいことも、行きたい大学もありません」
――夢さえも、ない。
そんなものとっくに、この狭い世界で過ごすうちに見失ってしまった。
□ □ □
「……はぁ」
夏休みに入って主たちのいない教室は、普段とは別世界のように寂しげだ。
そんな世界の片隅にある自分の席に座り、広げた参考書と問題集を見ながら今日何度目か分からないため息をつく。
ここ最近、一人になる瞬間は必ずと言っていいほどため息をつくようになった。原因はきっと、解決しなければならない悩みをいつまでも抱えているからだろうけど。
一度机に置いたシャーペンを再び持って文字の序列に向き合うと、喪失感のようなものが体に付きまとってくるのを感じた。
昼が近づいて気温が一気に上がってきたのか、さきほどよりも汗ばんだ肌がべたつく。
そうして余計に感じる気だるさから、また、なんの得さえないため息をついた。