私と彼のマイペース
グラウンドが目の前にある校舎の教室にいると、外で部活をしている人達の忙しい声が聞こえてくる。
蝉の大合唱と張り合っているみたいな元気な声が、そこかしこで飛び交っているのが分かる。
窓が開いているせいか、まるでそばにいるみたいに鮮明だった。
気晴らしにと思って窓の外に目を向けたとき、カキーンという軽快な音とともに、白球が青い空に向かって力強く飛んでいった。
練習している野球部の人達の遥か頭上を抜けていく白球が、少し羨ましく思える。
私の悩みも、誰かがバットで打ち飛ばしてくれたら楽になるのに。
こう、場外ホームランになるみたいに豪快にさ……。
「……よし、やるか」
ぐっと天井に向けて腕を伸ばして、固まっていた体をほぐした。ありえない現実を夢見ながら、突き付けられている現実に再び向き合う。
そんな私を邪魔するのか、助けてくれるのか分からないけど……。
とにかく私の手を止める声が、腕を下ろそうとしたときに割り込んできた。
「あれ、折原?」
声に驚いて目線を動かすと、教室の前の入り口のところに誰かが立っていた。
「……朝倉くん」
声だけでは誰か分からなかったけど、ちゃんと姿を見たら一目で分かった。
だって、彼ほど校則に捕らわれずに自分の好みの格好をして自分を主張している人は、この学校では他にいないから。
耳にはクロスのピアス、首にはメダルチャーム。明るい茶髪のショートウルフカット。
ボタンを一つも留めずに、前が全開になっているカッターシャツ。その下に見えている赤色のタンクトップは、制服自体よりも存在感が増して見える。