私と彼のマイペース
「会うの久しぶりじゃーん! 終業式ぶり!」
確か終業式の日はあれが黄色だったなと思いながらその姿を見ていると、やけにテンション高めな様子で彼が教室内に入ってきた。
そして私の席に近づいてきた彼……クラスメートの朝倉くんは、机の上の勉強道具一式を驚いた目で見た。
日に当たると茶髪は輝いて見えて、近くで見ているとちょっと眩しい。
でも……重苦しい気持ちを抱えている私の黒髪よりも、ずっと綺麗だと思った。
「てか……えっ、もしかして折原、夏休なのに学校に来て勉強してんの?」
「……うん、そうだけど」
「すげぇ、偉いな!」
そんなに驚くことないのに。わざとらしいほどに目を大きく見開かせる朝倉くんを見てそう思った。
しかも偉いだなんて……自分では、全然そう思えない。
「なんの勉強してんの……って、英語かよ~。よりによって、俺が一番苦手な科目じゃん。これじゃあ見ても分かんねぇわ」
朝倉くんは問題集の英文を覗き見ると、もう結構だと言わんばかりに顔を背けた。見るのも嫌になるほど嫌いなのか。
「てかさ、なんで夏休みに教室で勉強してんの?」
さっきから質問ばかりだな……。
目に映るものすべてに興味が湧いている子供みたいに、朝倉くんは聞きたいと思ったことはすべて聞いているみたいだった。
朝倉くんとこんなにも向き合って話すのは初めてで、彼の会話のペースに少し戸惑ってしまう。
いつの間にか彼は私の前の席に座り、私の返事を大きな瞳を向けて待ち侘びていた。
朝倉くんの瞳の中に映る自分に見られているのを感じて、逃げるように問題集に目を向けた。