揺らぐ海から
まぶしく床を照らしつけていたオレンジ色の夕日が勢いをなくすころ、目的の駅に到着した。私の他に降りる乗客はいなかった。

潮の香りを含んだ重たい風が、体をやわらかく包む。

薄暗い道を歩いていくと、景色は開けた海岸から岩場へと変わっていった。夏は海水浴場になるのだろう。所々に、いわゆる海の家らしき古ぼけた建物が寂しく佇んでいる。

辺りには誰もいないのに、子どものはしゃぐ声が聞こえた気がした。

かつて、確かに人の賑わいがあったことを示す景色が、そういう音を捨てきれないまま、道行く人に思い出語りをするのだろう。

砂にまみれた階段を降り、ごつごつした小石の混じる砂浜をゆっくりと歩いていく。
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