揺らぐ海から
どうしてだろう、私は驚かなかった。

声の聞こえた左後ろを振り返ると、中年の男性があぐらをかいてこちらを見ていた。目が合っても、ほほえんだままだった。暗くてはっきりとは分からないけど、よく日焼けした顔に黒いゴムの長靴、赤いキャップをかぶったおじさんは、漁師だと思った。

ここに来るまでの足音にも気づかなかったが、そんなことはどうでもよかった。もう誰とも話したくはなかったのだけど、煩わしさを感じさせないおじさんには、少しくらい会話をしても構わないと思った。

「何をですか?」

「嬢ちゃんが今、しようとしてることさ」

「分かるんですか」

「分かるさ」
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