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第８章 迷走する世界
ｱﾘｽの剣による傷から、大きな瘴気の塊が外界に顔を出す。その時の痛みは今までのものとは計り知れないもので、ｸﾘｽは無言のまま大地に倒れた。


『…ｯ!!!!!!』


必死に起き上がろうとも、身体に力が入らない。



目の前では、闇の塊が人の形を成していく。同時に空が漆黒の雲に覆われていった。


『ありがとう、ｸﾘｽくん
　ｷﾐのお陰で偉大な人物を
　甦らせることが出来た』


ｼﾞｪﾝは漆黒に染まる天を仰いだ。途端に紫電が空に走り、大気を割る音が響いた。大地は唸り、先程とは比べ物にならない旋風が、闇を中心に発生する。


『な…にを…』


ｸﾘｽは上体だけでも起こそうとするが、腕は震えるばかりで何もすることが出来ない。


突如、闇の塊が破裂した。


その衝撃による波動がｸﾘｽの身体を易々と持ち上げて木にぶつける。


『ぐぁっ…』


思い切り背中を打たれ、呼吸もままならないままに崩れる。懸命に頭を上げると、冷たい視線を持つ男が目の前に立っていた。


ｸﾘｽは全身に寒気を感じた。


冷たい視線を感じたからではない。


冷たい視線から今までの戦場で感じた事の無い殺気を放つ男が、自分そのものだったからだ。


ｸﾘｽは這いつくばったまま何も言えずに、視線を交差させる。


自分に似た男が暫くして眼を閉じ、笑みを浮かべると、ｸﾘｽの背中に冷たい刃が突き刺さった。
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