captivate
振り下ろされた皇帝の剣が、シンディアに迫る。


刹那、一筋の光が輝く。


「誰ガ…閣下だッテ?」


皇帝の黒剣がシンディアの首筋を前に止まった。


皇帝は剣を止めた太刀を、眼を大にしてみるだけだった。


「まさか…ッ!」


「ふン…」


皇帝が顔を挙げる。


視線の先に立つ男は闇のオーラを纏っていたが、その眼差しが宿す光はクリス・ヴァンガード自身のものだった。


「なンカ…声が変ダ」


そう言うクリスを前にして、信じられない、と皇帝が呟いた。


それに構わずクリスが眼を閉じる。


すると彼から溢れ出ていた闇のオーラは、激しく燃え盛るように具現化しながらも、クリスの身体へと納まった。


「…支配したつもりか?」


「さぁね。それより…よくも仲間を傷付けたな!」


これまでのクリスの殺気とはケタ違いだった。


一陣の風が吹き荒れ、地が唸る。闇の波動を帯びた殺気がクリスから流れる。制御に至らなかった先程の闇とは違い、クリスを中心に闇が広がった。


「…裏切り者の末裔は、やはり裏切り者か」


皇帝が唇を噛み締める。その力は強く、怒りに震えた唇からは一筋の血が流れ出した。


その姿を前に、クリスがもう一つの太刀を抜く。


「クリス・ヴァンガード…参る」


クリスが一歩を踏み出す。同時にクリスは皇帝の眼から消えた。
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