captivate
クリスが起こした風の中を直撃を受け、皇帝が舞う。


完璧な一撃だった。


その一撃を受けた皇帝が地面に叩き付けられた。


クリスはそれを見届けながら、静かに太刀を納める。


「…あ。魔女狩りを止めるの、頼むの忘れてた」


クリスはそうぼやいて仲間の元へ向かった。


「レオン。ロック」


「クリス…すまないな…」


レオンが上体を起こす。だが傷を負ってるようだ。


「逃げるぞ。2人、担げるか?」


「多分大丈夫…皇帝は?」


レオンが立ち上がりながら尋ねた。


クリスは背を向いたまま親指で皇帝を指差す。その指の先には皇帝が倒れていた。


「…交渉失敗か」


「それどころじゃなかった…ロック?」


「あぁ…悪い。大丈夫だ」


頭を抑えながらロックが身体を起こす。頬や腕の擦り傷から、多少出血は見られるが、大きな怪我はなさそうだ。


その背後には、右肩を抑えるアルの姿がある。その方の傷は、ロックとは対象的に、タダの擦り傷の様な印象はない。


「早くこの場を発ちましょう。ここはアウェーのど真ん中。脚を止めたら、確実にやられますよ」


その言葉が合図かの如く、大勢の帝国兵が、クリスの手で斬られた扉から駆け込んでくる。


鮮やかなまでの陣形を整える敵軍を前に、クリスは静かに太刀を一本抜いた。


これまでの雰囲気が緊張感で空気が張り詰める中、もう一つの、斬られていない、もう一つの重い扉が開く音だけが響き渡った。
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