captivate
ミストラル中央通りにある騎士団詰所。


看板には“ガーデン騎士団第7部隊詰所”と書いてある。


詰所の中は、ほとんどが交通整備などに出払っている様で、一人の騎士しか残っていない。


その騎士は、何をしている訳でもなく、ただ静かに読書に勤しんでいた。


そんな詰所の中に、受付係の騎士が紙を片手に入って来る。


「クリス?教会から呼び出しだ」


入り口に背を向け、本に目を通していた少し茶がかかった、長めの髪型の男。


彼は本にしおりを挟み、溜息を吐いた。


「…なんで?」


クリスと呼ばれた男は、無関心に答える。


「わからん。とにかく行けや、隊長」


クリスはその言葉に対してなのか、少しうんざりした様子で、本を置いて立ち上がった。


「隊長はよしてくれ…行ってくるよ」


そう言って騎士の隣を通り過ぎる。


「いってらっしゃい」


「はいよ」


挨拶がわりに右手を挙げ、クリスは詰所を後にした。


詰所の机には、彼が読んでいた本だけが一冊だけポツンと置いてある。


“ヨーツンヘイム王立史”


表紙にはそう記されていた。
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