きみに想う 短編集
王と陸
王子の存在を知ったのは偶然だった

年寄り貴族の未処理案件で

普段は絶対に行かない

地方への取り立てに陸が向かう羽目になり

イライラを最大限にぶつけた後だった

「領主、わたしに隠して通じると思っているのですか?」

「ま、待って下さい!あと3日以内には必ず…」

「あと3日で何が出来るというのです?
3日で解決出来るのであれば、わたしがここに来る理由はありません」

表情1つ変えずに、冷静に税を滞納する領主から

予定通りの徴収が済んだ後

屋敷を後にして

小さな街を歩いていた陸に

ピンクの薄い生地のドレスの女がぶつかってきた

「申し訳ありません…」

ぶつかってしまった相手が貴族と気づき

恐怖と緊張で震える娘に

特に興味を示すこともなく、無言で立ち去る陸

頭を下げたままの娘に

近付く若い男が1人

深いつばつき帽子を被り

手を引いて陸とは反対に向かう

陸は先を急ぎ帰ろうとする
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