As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
私たち
「千代、話がある」
高校2年生に進級し、日も浅いある日の朝
珍しく父の姿を見つける。
けれど、その顔はまるで仕事の話でもするかのように真剣だ。
朝からなんだろう……
まさか、また代理でモデルをやってれなんて言われないよね
前に一度、雑誌の撮影当日でその日撮影する予定だったモデルさんがおたふくで当分撮影できなくなって、その時はパパに頼まれてそのモデルさんの代理をしたんだった。
「……なに?」
恐る恐る訊いてみると
「実は、お前にお見合いをしてもらおうと思うんだ」
お、お見合い……?
お見合いって、初対面の男女が結婚目的で行うアレ……だよね?
それを、私が?
なんで?
まだ16歳の私が……
「………ええええええ!?」
ワンテンポ、ツーテンポ遅れた私の叫び声がリビング中に響いた。
「相手はとても良い人だぞ。蘇芳碧斗(すおうあおと)くんと言うんだ。歳は……確か25くらいだったかな。あの歳で企業を立ち上げるなんて関心さ」
そう言って、腕を組み頷きながら関心する。
25歳で若いとはいえ、私から見たら9つも年の離れた見知らずの男性……
それにしても
「どうして今なの?」
「それは、いろいろあってな。大人の事情だ。まあ、簡単に言うと合併による企業拡大化って所だ。蘇芳くんとの縁談が上手く行けば、婿入りだ」
会社のため……か
「………そっか。で、いつなの?」
無理やら微笑んで見るけれど、本当は嫌だという気持ちで一杯だ。
「そうか、お見合い受けてくれるのか!顔合わせは来月の頭に予定してる。まだ蘇芳くんとも時間調整している途中でな。詳しいことが決まったらまた伝える。じゃあ、父さんは仕事行ってくるからな」
嬉しそうな表情でそれだけ言うと、せかせかと玄関を飛び出していった。
「はぁ、お見合い……か」
突然のことで驚いたけど、『社長の娘』だもの。
いずれにせよ、いつかこうなるんじゃないかとは思っていた。
でも、それが今なんて、急過ぎて動揺してしまう。
悠太……
こんな時、彼がいればまだ心強かったのに。
いつも通りの朝が、いつもとは違ったものになった。
『お見合い』『蘇芳碧斗』と言う言葉が頭の中をグルグルとよぎりながらも、一人トボトボと通学路を歩いていた。