As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
「そろそろ球技大会だな」
「まあ、5月の下旬だからまだ全然日にちはあるけど、隼人くんはもうやる気満々なの?」
「そりゃあな!俺、体動かすの好きだし?」
「その代わり、頭使うのは苦手だよね」
「うっせー。あーあ、拓巳は頭良くていいよな」
「普通だよ、普通」
「はあ?毎回上から数えた方が早いくらいに順位が良い奴が『普通』とか言ったら俺はどうなるんだ!」
なんて、話している隼人くんと拓巳くん。
「隼人くんは、相変わらずだよね」
「うん、確かに。あんまり落ち込んでるところとか見たこともない位に元気だよね」
「んー、でも、意外と落ち込むよ?隼人くんも」
学校の自販機に売っている、牛の絵が目印の200mlほどの牛乳パックを片手にそう言った。
「たとえば?」
「たとえば、ライブ中にコケたときとか。あー、思い出しただけで笑える。」
「そんなに面白いの?」
「ライブ後の楽屋で『俺、何も無い所でコケたんだけど……てかファンの皆、笑ってたよな……はぁ、マジ俺ってないわ……もう無理』とか言ってさ。もう、この世の終わりだって顔してたよ。実際、大したことじゃないのにさ」
落ち込むところ、そこなんだ……
「……だ、誰だってそういう失敗はあるよ」
「その言葉、隼人くんに言ってあげな。多分、ぶり返して大変なことになるから」
大変なことに……うん、言わないでおこう。
というか、その話はライブの裏話として雑誌のインタビューで話すべきかも。
絶対、ファンはそういう情報に嬉しがるものだと思うけど。
普段見せない顔……とかいうやつ?
私にはよくわからないけど
「でさ、今年も俺は全種目出るつもりだけど、拓巳は?」
「んー、俺はどうかな。学校での姿が姿だし……」
「まあ、なんにしろ、一試合目くらい出させられるだろ。お互い頑張ろうな!」
「まだ先だし、今からそんな熱くはなりたくないかな。隼人くんが勝手に熱くなってればいいと思う」
穏やかなその表情からは発せられてるとは思えない、冷たい言葉。
「そうか!」
それに全く動じない隼人くんも隼人くんだ。
って、今更だけど自然に『隼人くん』なんて言ってしまっているのが少し前の私じゃ考えられないな、と不意に思った。