As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
その頃……
「ねぇ、圭くん、大丈夫かな?大丈夫だよね?」
「あーあー!悠太の声なんか聞こえないー」
「けーいーくーん、真面目に聞いてよー!」
圭の肩をぶんぶん揺さぶる悠太。
「まぁまぁ、落ち着きなよ、悠太くん」
「落ち着けるわけないじゃん!!」
拓巳がなだめようとするが、無意味に終わる。
レッスン室に来てからずっと落ち着かない悠太から事情を聞いたStarRiseのメンバーは、千代のお見合いについて既に知っていた。
「お前がそんなに騒いだって、どうにもならないだろ」
「そうだそうだー。俺らだって千代ちゃんがどこぞの男に持っていかれるのは嫌だけど、どうにも出来ないじゃんかよー」
「そ、そうだけどさ……あぁ!」
「お、おお、いきなり大きな声出してどうした」
隼人がはっと悠太を見る。
「そういえば、紗代里さんからこれ預かってたんだった」
そう言って、ポケットから取り出したのは手より小さな四角い機器とイヤホン。
「なんだそりゃ」
圭が首を捻る。
朝、車に乗る前に紗代里に手渡されたもの。
『いざと言うときは、貴方が千代をさらって頂戴ね』
「えっと、イヤホンを指して、あ、この赤いボタン押すのか」
悠太は、紗代里に言われた通りの操作を行う。
すると、ザザッとノイズが初めに入るも直ぐにそれは無くなり、代わりに、聞き覚えのある声が聞こえた。
「千代の声だ……」
「千代ちゃんの声!?」
「ねぇ、あそこにあるスピーカーに繋げて皆で聞かない?」
5人しかいない一室の片隅に置かれた大きなスピーカーに、機器を繋ぐと、音が流れ始める。
『周防さん、見てください!シロクマが魚食べてますよ!』
『あ、本当だ。迫力ありますね』
少しざわついた音に紛れて、千代と周防の声が聞こえた。
「これ、盗聴だな。多分紗代里さんが千代に仕掛けたんだろ」
流が冷静に分析する。
「千代……何か楽しそう」
「いざって時に悠太が助けに行けって事なんだろな……」
隼人がそう呟くが、その声は誰にも届いていない。
『千代さん、水族館には良く来るんですか?』
『小さい頃に悠太……幼馴染みと何回か来たくらいで、今日は久々に来たので凄く楽しいです』
『楽しいならなによりです。……そろそろお昼でもどうですか?』
『はい!……ザッザザッ…プツ』
雑音が聞こえ始め、直ぐに音は途切れた。
「切れたか。盗聴と言えど距離があるし、水族館ってことは人が多い。その分余計に電波が不安定なんだな」
「千代…」
「悠太、今は練習に集中しろ」
「隼人くん……で、でも!」
「ただし、また何か聞こえるようならその都度練習は一旦中止して、千代の様子を音声で確認すること。それなら文句ないだろ?人混みの中じゃ当分は聞こえなさそうだけどな」
「う、うん!」
千代が心配なことに変わりはないが、それでも今は練習を続けた。
また千代の声が聞こえるのを待つために一生懸命。
『盗聴器』名前は怪しげで犯罪臭漂うが、悠太たちにとっては千代の安否を確認する唯一の手掛かりだ。
社長が見初める相手なら心配は要らないのかもしれない。
それでも心配してしまうのは………………