As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
館内を隈無く散策し、日も落ち始めた頃、私達は水族館を出た。
周防さんと一日過ごして分かったのは、包容力があって気配り上手なこと、それと意外と子供っぽいところ。
パパの言う通り、いい人だ。
けど、まだこのままお付き合いしても良いかと聞かれれば、素直に『はい』とは言えない。
確かに、楽しかった。
それは事実。
「夕食は、一応料亭の個室を予約しているのですが、まだ時間がありますね。少し歩きましょうか。」
「はい」
周防さんは、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩き始めた。
オレンジ色に染まる空が二人の顔を赤く染める。
「……安心しました」
歩きながら、そっと口を開いた周防さん。
「大人しいのかと思ったのですがそんなことはなくて、なんと言うか……とても可愛らしくて子供っぽいところもあって……貴方となら上手くやっていけそうだなと思いました」
「私も、意外でした。もっと堅い人なのかと思っていたら、全然普通で……その、楽しかったです」
プルルルルッ
「おっと、失礼。出てもよろしいですか?」
「あ。はい、どうぞ」
内ポケットから端末を取り出すと、画面をタップし、着信に対応した。
「……はい、では頼みます」
「……迎えが近くまで来ているみたいなので少し待ちましょう」
ほんの数分後に、小型リムジンが到着し、運転手さんがドアを開ける。
「お手をどうぞ」
そっと差し伸べられた手に、ドキドキしながらも自らの手を添え、エスコートされながら車に乗る。
悠太、今頃何してるかな……練習かな。
車窓の外を見ながら、ふと悠太の顔が浮かび上がる。
『そんなの……僕が嫌だ』
そういえば、お見合いの事が悠太にバレたとき、そんなこと言ってたっけ。
もういっその事、悠太がこのお見合いを壊してくれたら______
って、また何を考えてるんだろう。
そんなこと不可能なのに。
「悠太………」
その言葉はエンジン音にかき消され、周防さんには届かない。
楽しかった思いとは裏腹に、寂しくて苦しい気持ちが急に胸を締め付けた。
迎えに来てよ……………