As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
「ん……」
目が覚めると、そこは車内で、あの料亭ではない。
それに、隣には悠太が座っていた。
「どうして……悠太が?私、周防と居たはずなのに……」
「ごめん、いろいろあって僕が勝手に千代を連れて帰ることにした。詳しいことは帰ってから話すから」
私が眠っていた間に何があったんだろう……
それ以上の会話は無くて、そのまま私の家に帰宅した。
すると、リビングにはパパもママもいた。
パパもママも深刻そうな表情。
「悠太くん、千代は大丈夫だった……?」
「……少し、危ないところでした」
「ねぇ、何が起こったの?」
そういうと、悠太は淡々と話しはじめた。
ママが私の服に盗聴器を付けて、それを悠太が聞いていたこと。
周防さんには裏の顔があって、実は女癖が悪いこと。
睡眠薬を投与されて眠っていた間に襲われかけたこと……
あと1歩遅れていたら何をされていただろう……そんなことを考えただけで身震いする。
「ごめん、僕がもっと早くに行っていれば………」
悠太が、私の首筋を撫でる。
その指先がくすぐったくて、身をよじらせた。
「ううん、助けてくれてありがと」
「千代、すまなかった。千代の本当の気持ちも知らず勝手に話を進め、結果危ない目にあわせた。父親失格だ……」
「私も、もう少し早くに気づくべきだったわ。ごめんなさい」
「パパ、ママ、謝らないで?パパとママは何も知らなかったんだもん。悪くないよ。結果的には、悠太が助けてくれたから、大事にならなくて済んだんだし、私は寝てたから別に怖い思いもせずに済んだ。それでお終い」
「まあ、僕もこの盗聴器が無かったら千代を助けることは出来なかったんだけどね。これに関しては紗代里さんに感謝だよ」
「………千代、久々に抱きしめさせてくれ」
「うん」
私は、パパの胸へと飛び込んだ。
ママも交えて、3人でギュッと抱き合った。
何年ぶりだろうか、この感覚は。
「……良かったね、千代」
そんな私達を、悠太は優しく見守ってくれた。
「悠太くんも来なさいよ」
ママが悠太を手招きした。
「え、僕もですか?でも……」
「君も、もう私達の家族同然だ」
「………そっか」
悠太はふっと柔らかい笑みを浮かべ、私達に交ざった。
しばらく、皆で抱きしめあった。
「さて、そろそろ二人にしてあげるか。ママ、一緒にディナーもどうだい?」
「ええ、喜んで」
「え?パパとママ、もう行っちゃうの?」
「久々の『デート』よ。ね、祐一郎さん」
「そうだね、紗代里」
「てわけだから、2人はごゆっくりどうぞ〜」
それじゃあ。と言うと、ママはパパの腕に腕を絡めてその場を後にした。
2人きりになり、とりあえず私はお風呂に入った。
水族館を歩き回ったり食事をしたりといろいろあって、さっぱりしたい気分だった。
お風呂を出ると、リビングのソファで、悠太がそっと私に言った。
「………あのさ、その痕……」
痕?
眉を下げて言う悠太。
「ここにさ……」
ほら。と悠太は、自分の首筋を指さす。
首……?
自分では見えない。
「鏡、見てくる」
洗面台の鏡で自分の首筋を見ると、一箇所だけ赤くなっていた。
「これって………」
キスマーク!?
でも誰が…………多分悠太は違うし……周防さん……?
ってことは、首筋に周防さんの唇が……!?
「………どうしよう」
どうしようと言っても、自然と消えるのを待つしかない。
リビングに戻ると、悠太が呟いた。
「……最悪だよ」
「え?」
「あんなヤツが千代に触れたなんて思うだけで殴りたくなるくらい」
「………」
「千代、こっちに来て」
「ん?」
そっと悠太のすぐ近くに立って上を見上げた。
「そのまま、首だけ左向いて」
「ん。…………っ!?」
すると、急に髪は払われ、冷たい指先が首筋に当たる。
「………動かないで」
「!」
耳元で囁かれ、力が抜けそうになる。
「ふふっ、可愛い………。僕が、この痕上書きしてもいい?」
「え、どういう______」
「んっ………」
私が言い終わる前に、首筋に柔らかくて温かい感触が襲った。
少し吸われるような…………
「ゆう……た」
「………ん、これで良し」
い、今のって………
「は、はぅわ………」
「顔真っ赤」
「だ、だって今……!」
キス……した。
首筋にだけど……
「アイツのキスマークに上書きしただけ」
「だけって……!」
「あんな酷いやつのキスマークが残るより、僕のキスマークが残った方が良いとは思わない?」
「それは………そうかもしれないけど」
正直、まだ半信半疑なんだ。
あんなに優しい人が女癖が悪くて、私を襲おうとしたなんて。