As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
「ねぇ、千代はアイツのことが好きになった?」
「……好きになんかなってないよ」
「ならさ、もうアイツのことなんか忘れなよ」
「うん、でも……………」
確かめたい………この目で、耳で、事実を……
最初から望んでいなかった。
お見合いなんて。
会ったって、好きになんてならなかった。
だけど、しっかりとけじめをつけなきゃ。
……………ねぇ、どうしてそんなに悲しそうな顔をするの?
「悠太、私……確かめる」
「何を?」
「明日、周防さんに会ってくる。それで、事実を知りたいの」
「………分かった。ただし、僕もついていくからね」
「うん!」
翌日、私達は周防さんの会社へと押しかけた。
「あの、社長と会わせていただきたいんですが……あ、日比谷千代です」
「かしこまりました」
「あの、僕のことは言わなくていいですから」
「は、はぁ……?」
しばらくして………
「確認が取れましたので、ご案内します」
案内され、社長室の前までやってきた。
「では、私はこれで失礼します」
心臓がドクドクと早くなる。
「千代、僕はここにいるから。何かあったら必ず叫ぶこと。いい?」
「うん。じゃあ、行ってくるね」
唾を飲み込み、扉をノックした。
「……どうぞ」
「失礼します」
恐る恐る入ると、周防さんは窓の外を眺めていた。
「おや、貴方一人ですか」
「はい」
「で、今日は何か用ですか?まぁ、貴方が聞きたいのは一つしかないでしょうが」
「……昨日、私は眠っていました。だから、何が起こったのかは良く分かりません。周防さんは、本当に酷い人ですか?」
「そうですね、昨日私が貴方に手を出したのは事実です」
徐々に、周防さんが私に近づいてくる。
「………な、なんですか」
髪を払い、私の首筋があらわになる。
「おや、私が付けた痕……濃くなっていますね。彼が上書きでもしたんでしょうかね」
スーッと触れる指先。
「触らないで下さいっ」
「嫌ですよ。折角貴方を私の手に……私色に染められると思ったのに……」
「っ」
「……そうだ、今ここで俺色に染めてやろうか……」
急に一人称も口調も変わり、表情も一変する。
私をソファまで押し寄せると、肩を押してソファに押し倒す。
「やめてください!」
「はっ、やめるわけないだろ。君を力尽くでも俺のモノにする。今まで出会ってきた女の中で君は一番だ。俺の手の中に居なきゃ勿体ない」
怖い。
率直にそう感じた。
腕は掴まれていて動くどころか抵抗すら出来ない。
「ゆぅ……た………悠太!」
「千代から離れろよ!」
ガッと周防さんを蹴り飛ばした。
まるでそれは正義のヒーローのようで。
「うっ………! やっぱり君も居ていたのか。まあそんな事だろうと思ってたけどな」
「一人でアンタなんかと合わせるつもりなんかないから。……千代、平気?」
「うん、全然大丈夫」
これでいいんだ。
これで周防さんの真実は分かったし、けじめもついた。
ただ少し………怖かった。
心做しか震えている。
「ほら、早くいこう?」
悠太に肩を抱かれながら、その場を後にした。
最後に見た周防さんの顔に、表情はなかった。
「悪役ってのも悪くないのかも……な」