As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
「ちーよちゃんっ」
ロビーにある自販機に居ると、背後から拓巳くんが忍び寄ってきた。
一瞬、悠太が追いかけてきたのかな、と思った。
「……拓巳くんか」
「俺じゃ不満だったかな。悠太くんが良かった?」
「ち、違うよ」
「そっか。でね、俺、千代ちゃんの事好きなんだ」
「………」
ゴトンと、ペットボトルが自販機内を落ちる。
「俺は千代ちゃんの事、本気で好きだよ」
やっぱり変だよ
皆して私のことが好きなんて
「そんなに変なことじゃないと思うけどな。皆が千代ちゃんの事好きなんて」
「なっ」
心の中読まれた……
「千代ちゃんかわいいし、いつも素で接してくれるし、一緒にいて楽しいし」
「……」
「まぁ、好きに理由なんてないんだから。人は愛がなければ生きていけないんだよ」
「私は、どうしたらいい?」
「……そんなの、自分の気持ちに素直になればいいだけだよ」
素直に?
「誰かが好きなら、その人に想いを伝えて、逆に好きでなければ振ればいい。それだけの話でしょう?」
そう……そうなんだよね
好きとかそういうのは分からない。
だから、好きじゃないなら振ればいいだけの話なのだけれど。
なんでこんなに躊躇ってるんだろう。
「迷ってる?」
「迷ってるというか……その、本当にズバッと振っていいのかなって」
「良いに決まってる。ただ今は、2人とも必死なんだよ。千代ちゃんを振り向かせる為に。誰も好きじゃないなら、チャンスはあるから。勿論、俺も狙ってるからね」
「必死……」
「今こうして2人っきりって言うのも、チャンスだよね」
妖艶な眼差しで、拓巳くんは近づく。
「拓巳くんっ……!?」
「本当、君には惹き付けられるよ。俺達を惹き付けるフェロモンでも発してるのかな」
スンスンと、拓巳くんの鼻が首筋を掠める。
「そんなの発してない!は、離れてっ」
「えー」
こんなところ、悠太に見られたらどうしよう。
絶対、ぷんぷん怒るに決まってる。
どうか、来ませんように
「っ」
背中には自販機で、逃げ場がない。
「悠太くんなら、多分来ないと思うよ。先生に振り付け確認してたから」
「な、なんで悠太が出てくるの」
「なんとなく千代ちゃんが考えてることは分かる気がして。当たってた?」
「あ、当たって…ない」
拓巳くんは本物のエスパーかもしれない。
「っと、この辺にしておいてあげようかな」
急に、踵を返した拓巳くん。
不意に横の廊下見ると、流くんが立っていた。
キッと睨む視線が、怖い。
「レッスンですねー、流くん」
「ああ」