あなたにキスの花束を


正確には、つい先ほどまで合コンで同席していた王子だ。

話もしていないのに脳内で速攻そんな仇名を付けるぐらいに、彼は王子だった。

垂れ目がちの優しげな眸と、右側の目許にある小さな泣きぼくろ。
すっきりと通った鼻梁と綺麗な弧を描く唇。
柔らかそうな茶色の髪は短めで、ワックスで適度に遊ばせて散らしてある。

すらりとした長身に加え、その容貌は端正な、正しく王子めいて甘やかなもので、合コンの席でも私以外の女子二人に猛攻を掛けられていた。

私などがついぞ話し掛ける機会すら得られなかったその彼が、私を抱き寄せていたのだ。

驚きすぎた私が語を継げずに口をぱくぱくさせていると、彼は胸の中に居る私を見下ろして、とても魅力的に一瞬片目を瞑って見せた。

「黙って調子を合わせて」という事らしい。

ハイ、黙ってます。私は今から石になります。

彼は私を勧誘していた青年へとすぐに視線を戻して。



「そういう事だから、この子は諦めて。もういいだろ?」



諌めるように告げると、改めて私を親しげに抱き寄せ、歩き出した。

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