あなたにキスの花束を



「あんまり気付いてくれないから、途中からちょっと面白くなってさ。どこまで気付かないか、試してみたくなって」

「……」

「まさかここまで気付いてもらえないとは思わなかったけど」

「だって片桐さんいつも眼鏡を…!」



そう、私にだって言い分はある。

片桐さんはいつもうちのお店に来る時は必ず眼鏡を掛けているし、髪もまあ寝起きっぽい寝癖ヘアーな事が多いのだ。
丁度わざと乱してくれたさっきみたいな感じの。

彼はまた溜息を一つ吐いて。



「君の店に行く時は、俺、いつも仕事が休みの時なの」

「……」

「普段はコンタクトだけど、休みの時は眼鏡なの」

「……」

「うちは君の店の近所で、だからつい気が抜けた格好で行く事が多かったのは認めるよ」



そういえば片桐さんのカルテには、コンタクトと眼鏡を併用している、という記載があったのを、私は今思い出した。

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